監修:パールスキンクリニック天神 院長 山道光作 医師(KOSAKU YAMAMICHI, MD, PhD)
(日本形成外科学会認定形成外科専門医(指導医)/日本美容外科学会(JSAPS)認定美容外科専門医/医学博士)

「顎が小さい」「横顔のバランスが気になる」「口元が出て見える」「顔をもう少しすっきり見せたい」といったお悩みでは、鼻や口元だけでなく、オトガイ(あご先)の位置や形態が関係していることがあります。
オトガイは顔の最下部に位置し、正面から見た顔の長さや輪郭だけでなく、横顔のプロファイル、口唇との位置関係、フェイスラインなど、顔全体のバランスに影響する重要な解剖学的構造です。
オトガイ形成術(genioplasty)は、このオトガイ部の骨を骨切りし、前後・上下・左右などへ移動させることで、顔全体との調和を考えながら顎先の位置や形態を調整する手術です。
一般には「顎を前に出す手術」と認識されることが多いのですが、実際のオトガイ形成はそれだけではありません。
顎を前方へ移動する、短くする、長くする、後方へ移動する、左右差を調整する、幅を調整するなど、骨格に応じてさまざまなデザインが可能です。
そのため重要なのは、「何mm動かすか」だけではありません。
顔全体の骨格、咬合、下顎骨角部(エラ)を含めた下顎形態、軟部組織、下顎下縁との連続性まで含めて立体的に評価することが重要になります。

オトガイ形成術(genioplasty)とは?
オトガイ形成術は、下顎骨の歯列より下方にあるオトガイ部を骨切りし、骨片を計画した位置へ移動させて固定する手術です。
代表的な術式がsliding genioplasty(スライディング・ジェニオプラスティ)です。

骨切りしたオトガイ骨片そのものを移動させるため、人工物を使用して顎先を形成する方法とは手術の考え方が異なります。
移動方向によって、主に以下のような調整が可能です。
| 顎の状態 | オトガイ形成で行う主な調整 |
|---|---|
| 顎が後退している | 前方移動(advancement) |
| 顎が前に出ている | 後方移動(setback) |
| 顎が長い | 垂直的短縮(vertical reduction) |
| 顎が短い | 垂直的延長(vertical lengthening) |
| 顎が左右にずれている | 左右方向への移動 |
| 顎先が広い | 幅・形態の調整 |
| 後退+長さなど複合的な問題 | 前後・上下方向を組み合わせて調整 |
つまりオトガイ形成は、単純な「顎を出す手術」ではなく、下顔面の三次元的な骨格バランスを調整する手術と考えた方が正確です。
オトガイ形成が適しているのはどのような人?
1.顎が小さい・後退している
横顔を見たときに顎先が後方に位置している状態です。
医学的にはmicrogenia(小オトガイ症)やretrogenia(オトガイ後退)などと表現されます。
オトガイが後退すると、実際には上顎や口唇が著しく突出していなくても、相対的に口元が前に出て見えることがあります。
このような場合、鼻や口唇だけを見るのではなく、オトガイを含めて顔全体のプロファイルを評価することが重要です。
2.顎が長い
オトガイの垂直的な高さが大きい場合には、顔の下1/3が長く見えることがあります。
この場合、単純に顎先を削るだけではなく、骨切りによってオトガイの高さを短縮するreduction genioplasty / vertical reduction genioplastyが選択肢になります。
ただし、「顔が長い=オトガイが長い」とは限りません。
上顎の垂直的過成長、下顎骨全体の形態、咬合、下顔面軟部組織などによっても顔は長く見えます。
そのため、原因がオトガイ単独にあるのか、上下顎を含めた骨格にあるのかを区別する必要があります。上下顎の長いケースでは、2 jaw surgery(両顎手術)の適応になることもあります。
3.顎が短い
顎先の垂直的な高さが不足している場合には、顔の下1/3が短く見えることがあります。
必要に応じてオトガイ骨片を下方へ移動させ、垂直方向の長さを調整します。
ただし、垂直方向の移動では軟部組織の反応も考慮する必要があります。
骨を何mm動かしたら皮膚表面も同じだけ動く、という単純な関係ではありません。
4.顎先の左右差・顔面非対称
オトガイが顔面正中から左右に偏位している場合には、左右方向への骨片移動によって調整できることがあります。
ただし、顔面非対称ではオトガイだけが偏位しているとは限りません。
下顎骨全体の偏位、下顎角の左右差、咬合平面の傾斜、上顎の左右差などが関係していることもあります。
そのため、必要に応じて写真だけでなくCTなどを用いて、オトガイ単独の問題なのか、下顎骨あるいは上下顎全体の問題なのかを評価します。
Eラインだけでオトガイ形成の適応を決めるわけではありません
美容医療では横顔を評価する指標として、いわゆるE-line(esthetic line)がよく知られています。
Eラインは鼻尖とオトガイを結んだ線と口唇との位置関係を評価する方法で、横顔を考える際の一つの参考になります。
しかし、オトガイ形成のデザインをEラインだけで決定することは適切ではありません。
なぜなら顔貌には、鼻の高さ・長さ、上顎と下顎の位置、歯槽骨の突出、口唇の厚さ、オトガイの高さ、オトガイ軟部組織の厚さ、下顎下縁の形態など、多くの要素が関係するからです。
したがって、Eラインはあくまで評価項目の一つとして考え、顔全体のプロポーションの中でオトガイの位置を決定することが重要です。
オトガイ形成では「骨」と「軟部組織」の両方を考える
ここはオトガイ形成を理解するうえで非常に重要なポイントです。
私たちが実際に外から見ている「顎の形」は骨そのものではありません。
下顎骨の上には、骨膜、筋肉、皮下組織、脂肪、皮膚などの軟部組織が存在します。
したがって、
骨を5mm動かしたから、見た目も必ず5mm変化する
とは限りません。
オトガイ前方移動後の軟部組織反応については以前からセファロ分析が行われており、硬組織の移動量に対して軟部組織が一定割合で追従することが報告されています。
一方、その比率には研究間・患者間でばらつきがあり、特に垂直方向では予測性が低くなります。
つまり手術計画では、骨の移動量だけではなく、
「その骨移動に対して、軟部組織がどのように反応するか」
まで考える必要があります。

オトガイ形成と顎プロテーゼの違い
顎を前方へ出す方法には、大きく分けて、
① 骨を移動するオトガイ形成術
② シリコンなどのインプラントを挿入する方法
があります。
両者は同じ「顎を出す治療」でも、原理が異なります。
顎プロテーゼは骨を切らずにボリュームを追加できる一方、基本的には人工物によって前方へのprojectionを増加させる治療です。
これに対して骨切りによるオトガイ形成では、自分自身の下顎骨を移動させるため、前後方向だけでなく上下・左右方向を含めた三次元的な位置調整が可能です。
したがって、「どちらが絶対的に優れているか」ではなく、どの方向に、どの程度、どのような形態変化が必要なのかによって治療法を選択することが重要です。
また、顎プロテーゼは人工物であるため、感染のリスク、ずれるリスクなどがあるため、当院ではオトガイ形成術を第一選択としてご提案しています。
ヒアルロン酸とオトガイ形成はどう違う?
軽度のオトガイ後退であれば、ヒアルロン酸注入によって顎先のprojectionを補う方法もあります。
注入治療は骨切りを必要とせず、ダウンタイムが比較的短いという利点があります。
一方で、ヒアルロン酸はあくまで一時的な治療であり、1〜2年で吸収されてしまいます。さらに感染や血行障害などのリスクもゼロではありません。
軟部組織にvolumeを追加する治療であり、骨格そのものの位置を変えるわけではありません。
「下顎骨そのものの位置・高さ・左右差を修正したい」という場合では、オトガイ形成術(骨切り術)の適応となります。
オトガイ形成で重要なのは「顎先だけ」を見ないこと
オトガイ形成を行う際に重要なのが、下顎骨全体との連続性です。
オトガイ骨片を移動すると、移動量や方向によっては、骨片とその後方にある下顎体との間に段差(step)が生じます。
そのためオトガイ形成では、
「顎先が理想的な位置に来たか」
だけでは十分ではありません。
正面、斜位、側面から見たときに、オトガイから下顎体、さらに下顎角へ続く輪郭がどのようにつながるのかを評価する必要があります。
自然な仕上がりを重視した輪郭形成
輪郭形成では、単に骨を多く削るだけでは良い結果は得られません。
骨格だけでなく、その上に存在する筋肉・骨膜・皮下組織などの軟部組織も顔貌を構成しています。
したがって、骨格と軟部組織の双方を考慮し、適切な手術計画をたてる必要があります。
オトガイ形成でCT・セファロ分析が重要な理由
オトガイ形成では、正面・側面写真だけでは評価できない情報があります。
特に重要なのが、
- オトガイの前後的位置
- オトガイの垂直的高さ
- 左右差
- 下顎骨の幅
- 下顎下縁の形態
- 歯根との位置関係
- mental foramen(オトガイ孔)の位置
- 下顎管との位置関係
- 上下顎骨の位置
- 歯列・咬合
- 口唇の状態
などです。
オトガイ神経は下顎骨内を走行する下歯槽神経から分岐し、オトガイ孔から出て下口唇・オトガイ周囲の知覚に関与します。
したがって、骨切り線を設定する際には、歯根やオトガイ孔などの重要な解剖学的構造との位置関係を確認する必要があります。
特に左右差を伴う症例や複雑な骨格形態では、三次元的なCT評価が有用です。
オトガイ形成だけでは治療できない場合もあります
ここも非常に重要です。
顎が小さく見える患者さんのすべてが、オトガイ形成の適応になるわけではありません。
例えば、下顎骨全体が後退しているmandibular retrognathiaでは、オトガイだけを前方へ移動しても、根本的な骨格・咬合の問題は改善しません。
反対咬合、上顎前突、下顎後退、顔面非対称など、上下顎骨と咬合に問題がある場合には、Le Fort I型骨切り術や下顎枝矢状分割術(SSRO)などの両顎手術(2 jaw surgery )・顎矯正手術(orthognathic surgery)を検討することがあります。
つまり、
オトガイ形成は「顎先」の位置を変える手術であり、「下顎骨全体」の位置を変える手術ではありません。
この適応判断は非常に重要です。
オトガイ形成の傷跡はどこにできますか?
一般的なオトガイ形成では、口腔内からアプローチします。
そのため、通常は顔の皮膚表面に大きな切開創を作る必要はありません。
口腔前庭部を切開して下顎骨へ到達し、計画した位置で骨切りを行います。
骨片を予定した位置へ移動した後、プレートやスクリューなどを用いて固定します。
オトガイ形成の主なリスク・合併症
オトガイ形成は確立された術式ですが、外科手術である以上、合併症の可能性があります。
代表的なものとして、
腫脹、疼痛、出血・血腫、感染、左右差、骨片の偏位、骨癒合不全、輪郭の不整、歯根損傷、知覚異常、オトガイ神経障害、プレート・スクリューに関連する問題、軟部組織の下垂
などが挙げられます。一般的には、感染や血腫、感染などは3~5%未満の比較的稀な合併症となります。
特に一時的な下口唇・オトガイ周囲の知覚変化は、人によっては半年〜1年ほど残ることがあり、内服薬での治療などで対処していきます。
Chin ptosis(顎先の軟部組織下垂)について
オトガイ形成では骨だけではなく、mentalis muscle(オトガイ筋)を含む軟部組織の扱いも重要です。
オトガイ部の軟部組織支持が不十分になると、骨格上の顎先に対して軟部組織が下垂する、いわゆるchin ptosisやwitch’s chin deformity(魔女顎)の原因となることがあります。
そのため、骨を理想的な位置へ移動させるだけでなく、軟部組織をどのように温存し、適切に再固定するかも手術結果を左右します。
オトガイ形成を「骨だけの手術」と考えないことが重要です。
オトガイ形成では何mm動かすのが正解ですか?
これは診察でよく聞かれる質問ですが、すべての患者さんに共通する「正解のmm数」はありません。
例えば同じ5mmの前方移動であっても、
鼻が高い人、鼻が低い人、口唇突出がある人、オトガイ軟部組織が厚い人、下顔面が長い人
では、術後の見え方が異なります。
さらに、前方移動量と軟部組織の変化量も完全な1:1ではありません。
したがって、単純に「○mm出せば美しい顎になる」と考えるのではなく、患者さんそれぞれの骨格と軟部組織に合わせて移動方向と移動量を設定することが重要です。
顎が小さい場合、オトガイだけを前に出せばよいとは限りません
オトガイ形成を検討する際には、「顎が小さい」という見た目だけから術式を決定しないことが重要です。
例えば、後退していて縦にも短い顎と、
後退しているが縦には長い顎では、同じ前方移動だけを行っても結果は異なります。
前者では前方+下方への調整が必要になる可能性がありますし、後者では前方移動と垂直的短縮を組み合わせた方が顔貌のバランスを整えやすいことがあります。
つまりオトガイ形成では、
「前に出すかどうか」ではなく、「三次元的にどこへ移動させるか」
を考えることが重要です。
オトガイ形成とVライン形成の違い
オトガイ形成とVライン形成は混同されることがありますが、同じ手術ではありません。
オトガイ形成は主として顎先の位置・高さ・幅・左右差を調整する手術です。
一方、いわゆるVライン形成では、オトガイだけでなく下顎体や下顎角を含めた下顔面全体の輪郭を調整することがあります。
重要なのは、すべての患者さんに広範囲な下顎骨切除が必要なわけではないという点です。
オトガイ形成単独で十分な場合もあれば、オトガイ周囲の限定的なcontouringを加えた方が自然な場合、さらに下顎角まで含めた輪郭形成が適している場合もあります。
必要な手術範囲は、患者さんの骨格によって異なります。
適応は医師が診察の上で判断し、治療プランをご提案させていただきます。
3Dシミュレーションを用いた術前イメージの共有
オトガイ形成では数mmの骨移動でも、横顔や下顔面の印象が変化します。
そのため、必要に応じてCT、レントゲン、顔貌写真、3Dシミュレーションなどを組み合わせて術前評価を行います。
3Dシミュレーションの重要な役割は、患者さんが希望する形態と、医師が医学的に実現可能と判断する形態を可視化し、術前に両者のイメージを共有することです。
「術後が完全にシミュレーション通りになる」と保証することではありません。
特にオトガイでは、前後方向だけでなく、垂直方向、正面から見た幅、鼻・口唇とのバランスを同時に確認することが重要です。
まとめ|オトガイ形成は「顎先だけを見る手術」ではありません
オトガイ形成術は、顎先の骨を移動させることで、顔の下1/3や横顔のバランスを調整する手術です。
前方移動だけでなく、短縮、延長、後方移動、左右差の調整など、骨格に応じた三次元的な治療が可能です。
一方で、美しいオトガイを形成するためには、顎先だけを見るのでは十分ではありません。
鼻・口唇・上下顎骨・咬合・下顎体・下顎角・軟部組織まで含め、顔全体との調和を評価することが重要です。
また、輪郭形成では「骨を多く削ること」が目的ではありません。
必要な部位を必要な量だけ調整し、下顎骨の自然な連続性と軟部組織の支持を可能な限り保ちながら、目的とする輪郭を形成することが重要です。
顎が小さい、長い、左右差がある、横顔のバランスが気になるといった場合には、まず原因がオトガイ単独にあるのか、それとも下顎骨・上下顎骨を含む骨格全体にあるのかを診断したうえで、オトガイ形成だけでよいのか、それとも両顎手術が必要なのか、適切な治療法を検討する必要があります。
参考文献
- Shaughnessy S, et al. Long-term skeletal and soft-tissue responses after advancement genioplasty. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2006.
- San Miguel Moragas J, et al. A systematic review on soft-to-hard tissue ratios in orthognathic surgery. Part II: Chin procedures. J Craniomaxillofac Surg. 2015.
- Kauke-Navarro M, et al. Implant-Based Chin Augmentation Vs Osseous Genioplasty: A Systematic Review of Indications and Outcomes. Aesthet Surg J Open Forum. 2025.
🏥 パールスキンクリニック天神
美容外科・美容皮膚科・形成外科
院長 山道 光作
🏅 日本美容外科学会(JSAPS)認定 美容外科専門医
🏅 日本形成外科学会認定 形成外科専門医(指導医)
🎖️ 米国形成外科学会(ASPS)国際会員
🎖️ 医学博士
元 福岡山王病院 形成外科 医長
元 福岡大学医学部 臨床准教授
👨⚕️ パールスキンクリニック天神について
当院では、形成外科専門医・美容外科専門医(JSAPS)の院長が、カウンセリングから施術・アフターケアまで一貫して担当いたします。
解剖学的知見に基づき、お一人おひとりのお顔の構造や状態、バランスに合わせた最適な治療方針をご提案いたします。形成外科・口腔外科・矯正歯科による輪郭専門チームが対応いたします。
まずはお気軽にカウンセリングへお越しください。

【執刀医・解説医師】
パールスキンクリニック天神 院長 山道 光作 M.D., Ph.D
【山道医師の主な学術業績】
🏆 スイスCrisalix社公式 Publications に本研究が収載され、3Dシミュレーション技術の臨床応用・発展への貢献が認められ『Crisalix 3D Expert Certificate(クリスタルトロフィー)』を授与されました。
📘 専門書『外眼部アトラス』(総合医学社)にて「眼瞼下垂/偽性眼瞼下垂(眼瞼皮膚弛緩症)」執筆
🎓 眼瞼下垂・眉下切開に関する臨床研究にて医学博士号を取得
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